テーマ 高度経済成長期の子育てをめぐるネットワーク
―つながりとしがらみの諸相―
趣旨
現在、「こども基本法」の制定や「こども家庭庁」の創設などの「こども政策」が進められています。これらには「子どもの権利条約」に即した政策実現への期待が寄せられる一方、保護者や家庭の「養育」の第一義的責任の強調とともに、急激な出生数の減少に対する国家の危機意識も見られます。他方、保育・幼児教育の質や専門性をめぐって「幼児期の終わりまでに育ってほしい一〇の姿」や「幼保小の架け橋プログラム」のように、国家の統制を強める方向も見られます。また、コロナ禍では保育の社会的必要性とともに、この間の規制緩和による保育条件や保育労働環境の劣化にも注目が集まり、「子どもたちにもう一人保育士を」の運動も広がりつつあります。このように子どもの問題が社会政策としてせり上がってくるとき、「子どもを誰が育てるのか、それを誰がどのように支えるのか」が問われながら、子育ての主体やこれを支援する人びとのネットワークがいかに立ち上げられ、そこにどのような社会が構想されていくのか。それは総力戦体制下の人口政策をはじめ、歴史的に繰り返されてきた問いでもあります。
今回の日本教育史研究会サマーセミナーは「高度成長期の子育てをめぐるネットワーク」をテーマに設定しました。高度成長期は、産休明け保育などの保育需要が高まり、集団保育か家庭保育かをめぐって運動と行政・政策が対立しながら、保育所づくり運動をはじめ「子育ての共同化」がつくり出されていく時代です。今回は、企業社会の成立とともに構築されていくジェンダー規範を視野に入れながら、子育てに必要な〝つながり〝、そこでの矛盾や葛藤がもたらす〝しがらみ〝を解きほぐし、制度・組織化されていく以前の子育てのネットワークとその形過程を確かめるとともに、子育てや保育の現場で子どもたちが取り結ぶ関係や集団のありようにも議論を広げることで、高度成長期の子育てのネットワークが有した社会形成の可能 性について考えてみたいと思います。
そこで今回は四名の登壇者をお迎えしました。同時代の育児や保育の諸相を写しとった思想や表象、戦後の保育政策を研究する方々の報告を受けて、人びとの「生存」を歴史のなかに据えて自己と時代を問い直す歴史学の立場から議論の扉を開いていただきます。参加者のみなさんとともに、子育てが生み出す社会的関係を歴史化する視座を考えるとともに、高度成長期の保育・教育史像を構築するための資料読解や叙述のあり方も追求してみたいと思います。久しぶりに対面での開催を予定しております。みなさまのご参加をお待ちしております。
日時
9月2日(土)13時から18時
場所
東京都立大学・九一年館多目的ホール(東京都八王子市南大沢一の一)
※対面にて開催します。
報告
松島のり子(お茶の水女子大学)
宮下美砂子(小田原短期大学)
和田 悠(立教大学)
コメンテーター
大門正克(早稲田大学)