テーマ:地域教育史研究の現在と今後の可能性
趣旨:
佐藤秀夫氏が「地域教育史研究の意義と課題」と題する論文を発表して従来の地方教育史研究に一石を投じたのは一九七六年のことであった(『教育学研究』第四三巻第四号)。それから四〇年の歳月が過ぎ、地域の教育の歴史をテーマとする教育史研究の蓄積は厚みを増しつつある。
佐藤秀夫氏は「地域教育史研究の意義と課題」のなかで、従来の地方教育史研究が史料の発掘と収集に重きをおくあまり方法論の構築を疎かにしてきたことを批判した。そして、こうした方法論の欠如が、教育制度や政策の地方への浸透・定着過程を跡づけることを主眼にした研究の量産を招き、地域の教育現実に立脚して地域の教育の歴史を明らかにしようとする研究を生み出しにくい土壌を育てたと指摘している。「私たちは、若い民主的と言われる研究者を含めて、つきつめると自分の論文の種さがしに、地域史編集の仕事にかかわっているのではないか」という佐藤誠朗氏の述懐を引き合いに出して、「「私欲」からではなく、逃がれられようもない自分たちの地域に責任をもつことから始まるところに、一言でいえば、地域教育史研究の本領があるのではないかと考える。そしてそこに、私のような職業研究者が答えなければならない。研究および研究者とはそもそも何であるのかという問いかけの一つの源泉があるように思うのである」と述べた佐藤秀夫氏の問題提起に、私たちはあらためて耳を傾ける必要があるのではないだろうか。
今回のサマーセミナーは、着実に研究蓄積を重ねつつある地域教育史研究が、地域の教育現実に立脚して地域の教育の歴史を明らかにするものたりえているのか、ということについて、あらためて考える機会としたい。「地域教育史研究の意義と課題」のなかで佐藤秀夫氏は、「地域の教育の歴史的構造を明らかにするという課題意識にとってとくに重要なのは、教育実践の歴史をその研究対象の中心にすえること」であると指摘するとともに、「権力と因習の抑圧のもとでみもだえし続ける地域の教育の歴史を明らかにするためには、従来のいわゆる教育制度史・教育政策史の単なる継承ではない質の制度・政策に関する歴史研究が不可欠」であると述べている。近年の地域教育史研究の蓄積のなかに、教育実践の歴史を明らかにしうる具体性をもったものや「従来のいわゆる教育制度史・教育政策史の単なる継承ではない質の制度・政策に関する歴史研究」が果たしてみられるようになってきているのか。本セミナーでの議論を通じて、地域教育史研究の現在の到達点を検証するとともに、今後の研究の可能性を展望してみたい。
司 会 柏木 敦(大阪市立大学)
報 告 者
八鍬 友広(東北大学)
坂本 紀子(北海道教育大学)
高橋 裕子(愛知教育大学)
湯田 拓史(活水女子大学)
コメンテーター
木全 清博(元・滋賀大学)
山下 廉太郎(名古屋大学)
日 時
2016年8月28日(日)午後1時半~5時半/29日(月)午前9時~午後0時半
場 所 金沢大学サテライト・プラザ(金沢市西町教育研修館内)
会 場 3階集会室
参 加 費 500円(資料代など)
※詳細については、『日本教育史往来』222号(6月末日刊行予定)にてお知らせいたします。
※一日目のセミナー冒頭で、会務報告を行います。
※一日目の夜に、近江町市場内 SEAFOOD TABLE YAJIMON(やじもん) にて、懇親会を開催いたします。会費は当日お知らせいたします。
※宿泊については、各自でご準備くださいますよう、お願いいたします。
※会場にて『日本教育史往来』101~200号復刻版を5000円⇒4500円で限定廉価販売をします。この機会にご購入を!
※お問い合わせ先 軽部勝一郎 電子メール kkarube@kumagaku.ac.jp(半角に直して下さい)