2025年度
【当日のスケジュールと報告者・報告要旨】
今回の卒業論文・修士論文等報告会は、3名の方にご報告いただくことになりました。
当日は、多くの皆様のご参加をお待ちしております。
【スケジュールと報告者・タイトル】
・9月6日(土)15:00 – 17:00
・ 信州大学松本キャンパス経法学部第一講義室 (長野県松本市朝日三丁目一―一)
*報告と質疑応答で1人40分、報告会の終了は17:00頃の予定です。
[報告1](15:00-15:40)
報告者:松本光さん(学習院大学大学院)
題目: 日本の教育実践史における外国人排斥問題とxenophobia
―1950年代以降に掲載された教育実践記録の分析をふまえて―
[報告2](15:40-16:20)
報告者:丸山泰斗さん (東京都立大学大学院)
題目: 長田新の教育学における「錬成」論―戦時下教育学と国民学校論―
[報告3](16:20-17:00)
報告者:上原雄大さん (京都大学大学院)
題目: 五帝国大学にみる近代日本の大学寄宿舎の史的研究
【報告の要旨】
〔1〕 松本光さん(学習院大学大学院)
日本の教育実践史における外国人排斥問題とxenophobia
―1950年代以降に掲載された教育実践記録の分析をふまえて―
2025年1月に提出した修士論文の内容, 及び博士論文に向けた今後の研究に関する展望について報告を行う。
修士論文では, 日本の教育実践史からみる外国人排斥問題に関する教育実践の特徴と課題について, 外国人排斥問題に対する国連の認識(1990年代の国連人権文書から現在の国連人権教育文書にまで度々記述されているxenophobia:外国人排斥)との比較の上で, 実証的に考察することを試みた。
周知の通り, これまでに教育実践史に関する研究は中野光([1969]1998)をはじめとして, 梅野正信(2007)や臼井嘉一(2013)など多数の研究が蓄積されている。本研究はとりわけ梅野の研究方法を参考にして, 国内の教育雑誌に掲載された教育実践記録を中心的な対象として調査・分析を行った。
また, 調査・分析対象とした具体的な教育雑誌については, 白井克尚(2020)や益本卓哉(2019)のように歴史教育者協議会『歴史地理教育』(1954~2024年, 創刊号から2024年10月時点最新号まで計975冊), 明治図書の『教育科学社会科教育』及び後継雑誌の『社会科教育』(1964~2024年, 創刊号から2024年10月時点最新号まで計787冊)に掲載された教育実践記録を中心とした。
そして本研究では, 外国人排斥問題に関する教育実践記録の一覧を作成し, 各教育実践で取り上げられた外国人排斥問題に関する記述を抽出した上で, 外国人排斥に関わる人権侵害の事実(暴力)の要素で分類を行うことにより, 日本の教育実践において扱われている外国人排斥問題の内容とその特徴について可視化を試みた。なお分類にあたり, 先述したxenophobia(外国人排斥)や国連設立の背景に位置づいているホロコーストへの反省に象徴されるような, 外国人排斥問題に対する国連の認識を参照することで枠組みを構成した。
以上のような研究内容及び手順を基に, 教育実践同士の比較・分析を行い, さらにこれを国連人権文書における外国人排斥問題の認識と重ね合わせることで, 日本の教育実践の共通点・相違点と課題について考察した。
〔2〕 丸山泰斗さん (東京都立大学大学院)
長田新の教育学における「錬成」論―戦時下教育学と国民学校論―
長田新は、戦前・戦後の日本の教育学界において大きな役割を果たした教育学者の一人で、その中で私が長田の教育学理論で特に関心をもったのは、「国民学校論」と「錬成論」です。1920年代に西洋教育思想を深く学び、道徳を中心とする教育活動を理想とした長田が、如何に戦時下の教育学理論の構成へと向かい、自身の「国民学校論」、「錬成論」を形成したかを卒論で明らかにしようとしました。
長田の教育理論を考察する前提として、アジア・太平洋戦争下の思想・学問統制が国家によってどのような背景で行われ、教育学者が統制の下で自身の理論を構築しないといけなかったかを確認し、総力戦体制下の学校制度と人間形成の方法として誕生した国民学校と錬成の内容を示しました。続いて大正期から昭和前期、総力戦体制下へと至る長田の教育学の構築過程を検討し、長田が国家や政治との関係において、国民学校の役割をいかに認識していたのかを、長田が国民学校の「骨髄」とした「皇国の道」の概念や教育の国家統制に関する議論に着目し、最後に長田が錬成の方法として注目した教科教育の構造について、教科統合や教科外教育との関係において考察しました。
修論では1930年代の長田の関心であった「民族」「政治」「国家」と教育の関わりを詳しく検討する予定です。先行研究では、長田は、教育が政治に従属することなく、政治を内側から克服する批判的な立場に立たなくてはならないとし、教育は政治に常に優位である考えを示していました。また、国家の本質を文化として、精神的・道徳的な性格を持つものとし、教育の本質を文化の創造と見る教育観と一致させています。『新知育論』(1939)の段階で、教育は政治を批判的に見るための「内的理性」の育成と、文化を創造し、国家形成に役立つ人間形成を行うものとしていました。そうした先行研究や長田の著作物を中心に、長田の「民族」「政治」「国家」と教育の関わりを検討します。
〔3〕 上原雄大さん (京都大学大学院)
五帝国大学にみる近代日本の大学寄宿舎の史的研究
今回の報告では、卒業研究の概略と、その内容の一部について報告する。発表者は、工学部建築学科の卒業生で、学部では建築史学の研究室に所属しており、建築史学の立場から近代の大学寄宿舎の研究をしていた。大学院進学後は全く異なる分野の研究室に所属しているが、寄宿舎研究も細々と続けている。
近代の日本において、学校の寄宿舎がどのような歴史的展開を辿っていたかは、意外にもこれまで明らかにされていなかった。本研究は、五帝国大学(東京帝大・京都帝大・東北帝大・九州帝大・北海道帝大)を中心に、明治初年-昭和24年に建設された寄宿舎の検討を通じて寄宿舎の成立と展開について明らかにした。これによって、時代的な教育理念の潮流や、文部省・大学における寄宿舎の位置づけ、寄宿舎に期待される役割や機能が明らかとなり、近代教育史の内実の解像度を上げることができた。これらの研究成果が、今後の学生生活史や近代の寄宿舎研究において、基礎的知見として役立てられることを期待しており、今後論文として成果を発表していく予定である。
2025年度
今年も卒業論文・修士論文等報告会を開催します!
- 目的:これまで取り組んできた卒業論文・修士論文の途中経過やまとめ、また自分の関心のあるテーマについての話題提供などを通じて、本会会員や本会の活動に興味のある者同士が交流を深めることを目的とします。
- 対象者:本会会員、または本会の活動に関心を持つ会員外の方などどなたでも参加可 能です。特に、学部生や大学院生の方、また現在、学校教員他研究職以外の仕事に従事しながら研究を続けている方などの積極的なご参加を期待しています。
- 会について
1 報告内容:卒論や修論の報告や現在執筆中、調査中のテーマに関する中間報告、さらには現在進めている調査・研究の途中経過やまとめ、自分の関心のあるテーマについての話題提供、など、内容や形式は基本的に自由とします。教育史の周辺領域に関わるテーマでも構いません。
2 日時・場所:2025年9月6日(土)15:00~17:30(予定)
*松本市内を会場として、対面形式で開催予定です。
*報告会(6日)の終了後に懇親会、翌7日にサマーセミナーが予定されています。
3 報告時間:現段階では、発表とその後の質疑応答合わせて、一人40分程度を予定しています。報告希望者の数や要望に応じ、報告や質疑の時間は適宜調整する予定です。希望者の数によっては、エントリーされた全員の方にご報告していただけない可能性もあります。その際は、エントリーを、先着順で締め切る場合もあります。現段階では、最大4名程度の報告を想定しています。
4 報告資料:各自印刷の上、ご持参ください。プロジェクター等必要な方は、エントリー後のやり取りの中でその旨お伝えください。
5 報告・質疑の形式:いわゆる学会発表とは区別します。研究活動の入り口に立つ方や開始間もない方、普段研究交流の機会がない方などが近年まとめた成果や途中経過を、皆で共有し、応援していこうというスタンスで、報告・質疑を進める予定です。
6 報告内容の公開:希望者は、会での報告内容を、本会が発行する「日本教育史往来」に投稿していただけます。その際、関連した内容を他誌等へ投稿される際の二重投稿にはご注意ください。掲載時期については、当該年度中の号にて掲載できるようにしたいと考えています。
7 エントリー方法:2025年5月18日(日)までに本会mailアドレス(jhes@outlook.jp)まで、ご連絡ください。その際、以下をお伝えください。その後、担当者より折り返しご連絡し、報告時間等の調整をしていきたいと思います。
i. 氏名(所属)
ii. 報告予定テーマ *仮題の場合はその旨注記ください
iii. 報告予定内容(800字前後)
* これらは、『往来』6月号および本会HP等で公開する予定です。
8 会員の皆様へのお願い:身近な方で、大学学部生、大学院生、または教員等をしながら研究活動を続けている方がおられましたら、この企画を是非ご紹介ください。
* 交流会にフロア参加していただける方も大歓迎します。事前の申し込み等は不要
です。報告者との質疑や参加者同士の意見交換を通じて、教育史や教育について
関心を持ち、考えていく仲間同士の交流を深めることが出来ればと思います。
9 この報告会は、会員の皆さんと作り上げていく生まれたばかりの試みです。企画の在り方についてご意見やご要望などがあれば、本会世話人までお寄せください。
10 ご質問等があれば、本会mailアドレス(jhes@outlook.jp)までお問い合わせください。
2024年度
【当日のスケジュールと報告者・報告要旨】
今回の卒業論文・修士論文等報告会は、当初の予定より急遽1名増え、4名の方にご報告いただくことになりました。
当日は、多くの皆様のご参加をお待ちしております。
【スケジュールと報告者・タイトル】
・8月10日(土)10:00開始 聖徳大学 1号館3階1323教室(サマーセミナーと同じ会場です。)
※報告と質疑応答で1人35分、報告会の終了は12時30分頃の予定です。
〔1〕宮長里実さん (お茶の水女子大学大学院)
「奈良の学習法」を支える家庭学習の研究――奈良女子高等師範学校附属小学校の実践記録から
〔2〕安藤まりんさん (お茶の水女子大学大学院)
教育委員準公選運動の展開と意義
〔3〕高橋寛さん (聖徳大学大学院)
近代北海道におけるアイヌ教育の一場面
〔4〕権田将拓さん (宇都宮大学卒業、中学校教員)
通知表廃止の教育実践史
【報告の要旨】
〔1〕宮長里実 (お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 人間発達科学専攻 教育科学コース)
テーマ:「奈良の学習法」を支える家庭学習の研究――奈良女子高等師範学校附属小学校の実践記録から
卒論報告及び修論の中間報告を行う予定です。
卒論では「自律的な学習」をテーマに戦前の奈良女子高等師範学校附属小学校(以下、附小)の教育実践を研究しました。附小の実践を先導した木下竹次の理論(木下著『学習原論』)と彼のもとで教育活動を行った訓導たちの実践記録(附小機関誌『学習研究』)が分析対象です。学校での学びを家庭に活かし、家庭での生活経験を学校での学びに活かすという循環が整うことがすなわち「自律的な学習」の実現であると考え、当時の附小における教育実践と家庭学習の実際を扱いました。分析の結果、当時の附小で目指された家庭学習像を三つに分類することができました。
修論ではこの研究を引き継ぎ、戦後の附小における教育実践と家庭学習の実際を扱います。報告会では、その途中経過として、重松鷹泰主事時代(1948~50年代)に確立された理論を先の三分類と照らして分析した結果を報告する予定です。
〔2〕安藤まりん (お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 人間発達科学専攻)
テーマ:教育委員準公選運動の展開と意義
卒業論文の簡単な概要と修士論文の進捗を報告します。
卒業論文「中野区教育委員準公選の経緯と意義」では、中野区教育委員準公選の発端から廃止までの歴史的経緯と特徴を明らかにしたうえで、その意義と限界点について考察しました。
修士論文では、対象を中野区から全国にひろげ、「教育委員の準公選をすすめるための全国連絡会」を基盤として全国各地に広まった教育委員準公選運動の実態を明らかにすることを目的としています。教育委員準公選の先行研究は中野区に集中しており、一定の成果をあげた高槻市や調布市などの他の自治体の研究は十分になされていないため、本研究は新規性の高い研究と言えます。現在は、雑誌記事や新聞記事の収集と、実際に準公選運動に取り組んだ住民に資料を提供していただけるよう連絡を取るなどの史料集めをしている段階です。報告会までには一定の史料を用意し、その分析結果の報告ができたらと考えています。
〔3〕高橋寛 (聖徳大学大学院)
テーマ:近代北海道におけるアイヌ教育の一場面
1896年に北海道弟子屈町で説教所を設置し、同時に教育場を開設した真宗大谷派僧侶、樋田(ひだ)黙然(もくねん)(愛知県中島郡祖父江町出身で1900年まで弟子屈に在住していた)は、その教育場で和人の子どもたちとともに、ア イヌの子どもたちを教えていた。和人が開設した教育場においてアイヌの子どもたちが学んでいたという史実に着目し、本報告では樋田黙然や教育場で学んでいたアイヌの子どもたちに関する、これまで収集した資料や知り得た情報を整理した内容が中心となる。
和人の教育場で学ぶということが、アイヌの子どもたちにとってどのような意味をもったのだろうか。現段階で収集できた資料や情報は、ごく僅かではあるが、教育場で学んだ子どもの子孫にあたる方々から聞き取った内容も紹介し、フロアからのご意見を参考にして、今後の研究の方向性を検討し、資料発掘の手がかりを得たいと思っている。
〔4〕権田将拓 (宇都宮大学卒業、中学校教員)
テーマ:通知表廃止の教育実践史
本論文は2022年度宇都宮大学教育学部卒業論文として作成したものである。本論文の目的は、通知表廃止校の廃止にいたる経緯及び同校の教育活動の特徴を明らかにした上で、通知表発行の教育的意義を再検討することであった。従来の教育評価史研究では、通知表はその起源とともに、廃止論や弊害論が唱えられていたことも取り上げられていた。この指摘に促され、通知表廃止校を紐解いていくと、6つの通知表廃止及び1つの発行回数削減の取り組みが明らかになった。最も古い取り組みは長野県・後町小学校のもので1917年に廃止された。最も長い間続いている取り組みは信州大学附属長野小学校の取り組みであり1921年から2022年度現在まで続いていた。長野では、このほかに上郷国民学校、伊那小学校でも取り組まれていた。通知表廃止の取り組みは長野県を中心に広がっていた可能性がある(卒業論文の原題は「通知表発行意義の再検討 ―通知表廃止校の取り組みに着目して―」)。
【報告会開催のご案内】
下記の要領で、卒業論文・修士論文等報告会を行います。フロア参加、報告ともに大歓迎ですので、ふるってご参加ください。
1.目的
これまで取り組んできた卒業論文・修士論文の途中経過やまとめ、また自分の関心のあるテーマについての話題提供などを通じて、本会会員や本会の活動に興味のある者同士が交流を深めることを目的とします。
2.対象者
本会会員、または本会の活動に関心を持つ会員外の方などどなたでも参加可能です。特に、学部生や大学院生の方、また現在、学校教員他研究職以外の仕事に従事しながら研究を続けている方などの積極的なご参加を期待しています。
3、会について
①報告内容
卒論や修論の報告や現在執筆中、調査中のテーマに関する中間報告、さらには現在進めている調査・研究の途中経過やまとめ、自分の関心のあるテーマについての話題提供、など、内容や形式は基本的に自由とします。教育史の周辺領域に関わるテーマでも構いません。
②日時・場所
2024年8月10日 10時―12時 サマーセミナー当日午前(予定)にサマーセミナー会場で実施します。
③報告時間
現段階では、発表とその後の質疑応答合わせて、一人四〇分程度を予定しています。報告希望者の数や要望に応じ、報告や質疑の時間は適宜調整する予定です。希望者の数によっては、エントリーされた全員の方にご報告していただけない可能性もあります。その際は、エントリーを、先着順で締め切る場合もあります。現段階では、最大四名程度の報告を想定しています。
④報告資料
各自印刷の上、ご持参ください。プロジェクター等必要な方は、エントリー後のやり取りの中でその旨お伝えください。
⑤報告・質疑の形式
いわゆる学会発表とは区別します。研究活動の入り口に立つ方や開始間もない方、普段研究交流の機会がない方などが近年まとめた成果や途中経過を、皆で共有し、応援していこうというスタンスで、報告・質疑を進める予定です。
⑥報告内容の公開
希望者は、会での報告内容を、本会が発行する「日本教育史往来」に投稿していただけます。その際、関連した内容を他誌等へ投稿される際の二重投稿にはご注意ください。掲載時期については、当該年度中の号にて掲載できるようにしたいと考えています。
⑦エントリー方法
2024年6月9日(日)までに本会メールアドレス(jhes@outlook.jp)まで、ご連絡ください。その際、以下をお伝えください。その後、担当者より折り返しご連絡し、報告時間等の調整をしていきたいと思います。
氏名(所属)/報告予定テーマ/報告予定内容(四〇〇字前後)
⑧会員の方への告知
希望者のエントリー後、調整が済み次第、本会ホームページにて、当日の開始時間やスケジュール、報告者、報告内容を告知します。告知の時期は、現段階では七月初旬頃を予定しています。
⑨会員の皆様へのお願い
身近な方で、大学学部生、大学院生、または教員等をしながら研究活動を続けている方がおられましたら、本企画を是非ご紹介下さい。交流会にフロア参加していただける方も大歓迎します。事前の申し込み等は不要です。報告者との質疑や参加者同士の意見交換を通じて、教育史や教育について関心を持ち、考えていく仲間同士の交流を深めることが出来ればと思います。
⑩この企画の在り方について
この会は、会員同士の交流の機会拡大と、教育史研究の楽しさを多くの人に知ってもらうべく企画された実験的な取り組みです。今回実施する形式や方法は、その第一歩として先ずは企画を動かすために決めた暫定的なものです。不完全な点は、今後参加者や会員の皆さんとの交流を深めていきながら適宜改善し、あり方を探っていければと考えています。
※ご質問等があれば、本会メールアドレス(jhes@outlook.jp)までお問い合わせください。