2009年度

テーマ: 近代北海道の地域教育史を(から)考える

趣旨:

「開拓」という国家事業を担わされた近代北海道には、例えば一八九〇年の第二次小学校令に示された小学校とは異なる修業年限三か年ないし二か年の「第二類尋常小学校」が設置されたり、一九〇三年には「特別教育規程」が定められるなど、全国的な制度とは異なる教育制度が国民学校令の施行まで適用された地域が存在した。そのため近代北海道教育の歴史は、仮に一般的な制度が適用された自治体を他府県と称するならば、他府県に比して「変則的・後進的教育」であったと特徴づけられ、他府県のような一般的制度へと克服していく過程であったとされている。しかし「変則的・後進的教育」という枠組みは、北海道教育の特徴を把握するに当たって、どこまで有効なのだろうか。北海道教育の特徴をより豊かに描き出すには、その制度下にある人びとと学校とのかかわりを実態にそくして明らかにすることが必要であると考える。北海道の「特殊性」は教育に限らず歴史学分野においても指摘されてきた性格であり、その枠組みを超える試みがなされてきた。一九八〇年以降、北海道を「内国植民地」としてとらえ、他府県から隔絶した「特殊性」ではない、近代日本の歴史の中に位置づく「特殊性」の解明が行われてきた。教育史学もそれに連動し、同じ「内国植民地」として位置づけられる沖縄と比較しながら、「差別」や「同化」教育を行った北海道教育の特徴を明らかにしてきた。しかし、そこに描かれたのは「国民統合」の客体として収斂される北海道の人びとであり、人びとが主体的に学校とかかわった様相やそれらを通して学校が北海道の地域に定着してきた過程は、未だ明らかにされていない。
今回のサマーセミナーでは、開拓使が公布した「学校維持概則」を契機に学校が各地域に設置されていく一八七七年から、北海道の「特殊な」教育制度が体系化されていく明治三〇年代後半までを対象時期とする。その時期の教育制度や地域の実状を具体的に提示しながら、他府県や沖縄、「外地」の植民地教育と対照させることによって北海道教育の特徴を明らかにしていく。そして北海道の人びとと学校とのかかわりを描き出し、学校が定着していく過程を明らかにする地域教育史を深めていくための多くの知見を得ることが目的である。さらにそれらの議論をとおして近代日本の教育の制度や意味をあらためて考えてみたい。何故ならば、「開拓」事業を背景にして先に述べたような複線的制度の下に、先住民であるアイヌの子どもたちを対象にした学校が設けられたり、他府県では認められない規模の小学校を移民に設置させるなど、重層的な制度構造の中に多面的な教育実態が重なり合う、いわば近代日本の様々な問題や矛盾を北海道が抱え込んでいたからである。そうした北海道の地域の実態を分析することによって、近代日本の教育をあらためて問い直すことができればと思っている。

日 時:2009年8月1日(土) 午後1時半~5時半
8月2日(日) 午前9時~12時半

日 程:
・8月1日
報告者 井上高聡(北海道大学大学文書館)
小川正人(北海道立アイヌ民族文化研究センター)
コメンテーター 柏木敦(兵庫県立大学)
駒込武(京都大学)
近藤健一郎(北海道大学)
司会 未定
・8月2日
報告者 井上高聡(北海道大学大学文書館)
坂本紀子(北海道教育大学)
小川正人(北海道立アイヌ民族文化研究センター)
コメンテーター 柏木敦(兵庫県立大学)
駒込武(京都大学)
近藤健一郎(北海道大学)
司会 小川正人(北海道立アイヌ民族文化研究センター)

場 所:同志社大学今出川校地地寧館五階会議室
今出川校地までの交通についてはこちらをご覧ください。
今出川校地の詳細についてはこちらをご覧ください。

参加費:1500円(資料代など)

*初日の夜に同志社大学寒梅館七階Second House willで懇親会を開催いたします。会費は一人五〇〇〇円です。
*宿泊については、各自で手配をお願いします。