「創刊にあたって」

『日本教育史研究』創刊号(1982年3月1日)より

 
今日の教育をめぐる現状は厳しい。世界的全般的危機の進行の中で、日本の教育「荒廃」は「崩壊」に連なるかのようにみえる。だが、矛盾は変革のための跳躍台ともなりうる。
 子どもの人格を扶け、ともにのび、人間と教育の尊厳をうちたてる、文字どおり命をかけた真剣な実践が積み重ねられていることは、われわれを勇気づけるものだ。きびしい現実との格闘のなかでこそ、学問が鍛えられるとすれば、教育史学もまた例外ではない。
 その戦後の軌跡をたどる時、天皇制教学の呪縛から解放され、学問の科学的再建と日本社会の民主化との情熱に促されて、飛躍的発展してきたことに胸がうづむ。先達のすぐれた成果に好刺激をうけ、支えられ、われわれは現在を生きている。
 いま、ここに、教育史研究の仲間とともに一歩をふみだしたいと願うのは、先人を導いた情熱を享け、拓ききたった道を明日に向けて、批判的に継承し発展させたいがためである。現代の教育政策や思想・実践をめぐる諸問題は、しかしながら、複雑で多様な指摘社会的要因が絡みあって顕在化している。これらを歴史発展の位相において、立体的かつ科学的にとらえなおさなければ、現状を理解することも将来への展望を見出すことも困難であろう。
 教育と社会の現実をみすえ、そこからの課題をも心にとめ「とらえなおす」分析視角と方法論を駆い、教育史学の新しい地平の開拓をのぞもうではないか。それにはカテゴリーの再検討や、教育史研究の対象領域の吟味等をも包含していよう。
 教育史研究を一段おしあげることは、困難な時間を要する重い課題であることを自覚しつつも、いま志をよせあい集団的にその第一歩をすすめたい。既成の枠を超えて、広く、自由に交流できる全国誌として、ここに「日本教育史研究」を創刊する。
 豊かな新しい峰は、会員・読者諸兄姉の力強い、そして、積極的な参加に俟つものである。